親爺の鬼平 - 艶物話

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文庫 3 − 「麻布ねずみ坂」
  お八重は、二十六、七といったところか・・・・・・。
  細っそりとした肩から胸乳のあたりのなよやかさにひきかえ、
 (尻が背中にくっついておるわえ)
  と、さすがに宗仙はひと目で、女の肉体を看破した。つまり、お八重の下半身の発達のみごと
 さに瞠目した、といってよい。
  通ううち、ある日に、お八重が急病で寝こんでいると女中からきき、
 (こいつ、うまい)
  宗仙、おもいきって病間へ押しかけ、しきりに遠慮をするお八重へ指圧をほどこしたものであ
 る。なにしろ、名人・宗仙の手ゆびにかかっては、いかな女でも敵すべくもない。
  下腹の痛みが、淡雪のごとく消えうせたかとおもうと、
 「あ……ああ……う、う……」
  お八重が悦惚たるうめきを発しはじめた。
 「ここは、いかがじゃ。ここちよかろうがな」
 「あ……もう……た、たまりませぬ……」
 「ここは、それ……それそれ……」
 「あれ、もう……」
  夢うつつのうちに、お八重は宗仙をうけ入れてしまった。
文庫 3 − 「艶婦の毒」
 (よし、今日こそは
  あの年増女のあぶらの乗った肉体をもみしだいてくれようとばかり、約束の時刻に、料亭〔俵
 駒〕へあらわれた。
  間もなく女も来て、軽い昼食をすましたのち、忠吾は俵駒の二階座敷で、早くも女を抱き倒そ
 うとかかったが……。
 「ま、そないに血走った眼ェしやはって、あほらしやの……いやや、いやや。おお、怖わ」
  女は柳に風とかわしぬき、かわしながらも部屋からは出て行かず、忠吾の昂奮を余裕たっぷり
 にもてあそんでから、
 「北野の天神さまへおまいりを……」
  ひらりと廊下へ出てしまったから、仕方なく忠吾も後につづいたというわけであった。
  この夜、平蔵は父の役宅へもどらなかった。
  お豊の情欲の烈しさは、そのころの女として瞠目に価するもので、あそびなれた平蔵が目眩す
 るような仕ぐさをしてのける。
  裸身になったお豊は、骨格意外にととのい、肩や腕の肉おきはすんなりとしていても、乳房も
 ゆたかで、ことに、腰まわりから太股にかけて白い肌が女ざかりの凝脂にみちみちて、みごとな
 ふくらみを見せていた。
  化粧の気もないのに、女体からたちのぼる汗のにおいが、茴香のような芳香をはなった。
  お豊とのめくるめくような愛欲の日々は、以後十日にわたった。
  この間、お豊は営業をやすんでしまったし、老爺も小女もどこかへ行ったきり帰って来ない。
  それもこれも、
 (この、おれゆえにか・・・・・・)
  と平蔵、悦に入っていたものだが、このあたり二十余年前の彼は、まだ若かった。
文庫 3 − 「兇剣」
  この白狐に抱きつかれたのだから、およねもたまらず、声をあげて逃げようとすると、いきな
 り、怒気を発した白狐の谷松がくびをしめてきた。どこをどうされたものか、およねは、すっと
 気をうしなってしまい、気がついたときには、まっ暗な部屋の中で、彼女は裸体にされていた。
  さるぐつわを噛まされ、声も出ぬおよねを、白狐の谷松が執拗に犯した。そのときの模様を、
 およねは平蔵にくわしく語ったわけではないが、それはもう、実に、すさまじいばかりのもので、
 「畜生め、畜生め……女という女は、みんな、おれを莫迦にしやがる。畜生、やい、およね。お
 れが面は、そんなに汚ねえか、そんなに、みにくいかよ」
  うめくように、谷松はいいながら、男を知らぬおよねのからだを、くり返し、くり返し、犯し
 つくしたものだ。乳房へ噛みつかれ、股へも歯をあてられ、しまいには、髪をつかんで、闇の中
 を引きずりまわされた。
文庫 3 − 「駿州・宇津谷峠」
「だって……」
「おらあな。お茂、いままでもう、お前の、その肉体のことを、夜な夜な夢にまで見て辛抱をし
ていたのだ」
「あれ……まあ、こんなところで……」
「かまうものかい」
「だって……その何とか、さまのすけとかが……」(中略)
「あれ、もう……およしな、ね……」
「いいってことよ」
「あれ、そんな……あ……もう、お前……ああ……」
  いやどうも、大へんなことになってきた。女の帯の音や、妖しげな物音にまじり、双方のあえ
 ぎが昂まり、そのうちに、たまりかねた女の愉悦の声がほとばしった。
文庫 3 − 「むかしの男」
  久栄が平蔵の妻となったとき、
 「このような女にても、ほんに、よろしいのでございますか……?」
  久栄が両手をつき、平蔵に問うた。
 「このような女とは、どのような女なのだ?
 「あの、私のことを……」
 「きいたが、忘れた」
 「ま・・・・・・」
 「どちらでもよいことさ」
 「は……」
 「おれはとても極道者だ。それでもよいか、と、お前さんに問わねばなるまいよ」
  いうや平蔵、ぐいと久栄を抱き寄せ、右手を久栄のえりもとから差しこみ、ふくよかな乳房を
 ふわりと押えつつ、
 「久栄」
 「はい……」
 「お前、いい女だ」
 「ま・・・・・・」
 「前から、そうおもっていたのさ」
 「あれ……ああ……」
  と、これが二十余年前の平蔵夫妻の結婚初夜の情景であった。

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