-- お盗め --
文庫 4 − 「五年目の客」 |
「それで?」 「それでおれは、川沿いの道に出ているうどん屋で酒をのみながら見張っていると……間もなく、 その船宿へ駕籠で乗りつけて来た女があってな」 「ふむ……」 「色白の:….さよう、年齢は三十がらみ……大年増だが、肉置きのよい、ちょいとおれでも箸を つけたくなるような女でな」 「左馬。おぬし、いい年齢をして今日はどうかしているのではないか。あたまを冷やせ」 「いや、本当なのだ」 「ふ、ふふ……」 「笑うな。そこでだ。およそ半刻(一時間)も見張っていると、先ず、女が出て来た。髪が、ち ょいとみだれていてな、顔に血がのぼっている。男に抱かれたのだ」 「こまかいな」 「おれだって、それほどのことはわかる」 |
「ところで音さんよ」 「うむ?」 「その丹波屋の女房は、どうするえ?」 「どうするって爺つぁん。なんでもねえことさ」 音吉は、ふくみ笑いをもらし、 「あの女房も、おかしな女よ。なにしろお前、初手からおれにのぼせあがり、わなわなと、こう ふるえ出してな……じいっとうつ向いたきり、声も出ねえ。長逗留のあいさつに来たというんだ が……ありゃあ、きっと、おれが丹波屋の客になったときから目をつけていたにちげえねえ。も うじき四十の声をきこうというのに、まんざら、おれも捨てたものじゃあねえな、爺つぁん」 「おきゃあがれ」 「よっぽどにあの女房、浮気ものなのだよ。折を見て、ひょいと手を出すと、たあいもなく、ふ ところへもたれこんできやがった。肉づきのいい躰をしていてなぁ」 「音さん。女にはお前、気をつけねえよ」 「冗談いっちゃあいけねえ。こう見えても江口の音吉は……」 「何年前だったかのう。ほれ、品川の女郎に五十両盗られてよう」 「あ……そいつをいっちゃあいけねえ。あのときはおれも一世一代の不覚よ」 「ひ、ひひ……」 |
その日がくると、たまらなく厭わしく、寺社の参詣などを名目にして店を出て来るのもつらか ったが・・・・・・しかし、そのいっぽうでは、お吉の肉体の底深いところからじりじりとうずき出して くるものがある。 単調で、おとろえ方がひどい夫の源兵衛の愛撫にくらべると、あの男のそれはねっとりと執拗 をきわめてい、以前は客をとっていたお吉の女体だけに、われ知らず、情欲のたかまりへ身を投 げこみ、無我夢中にさせられてしまうのであった。 「ああ……もう、ゆるして……ゆるして」 男のくびを、背を両腕に巻きしめ、狂いもだえながら、お吉はうわごとのように〔ゆるして ・・・・・・〕と、いう。それは、五年前のことを男にわびていることばが、喜悦の声となってほとばし るわけなのだけれども、江口の音吉にしてみれば、 (ははあ……この女め、よろこびながら亭主の源兵衛にわびていやがる) と、いうことになるのだ。 お吉は、つとめて五年前のことにはふれぬ。いまこうして、自分の躰で罪をつぐなっているの だから、うかつにそのことへふれては却って弱味につけこまれることになる、と考えたからであ った。 (けれど、こうしていては、深みへはまるばかりだ……) お吉は、一日も早く、あの男が丹波屋から出て行ってくれることをねがい、それでいて次の 〔あいびき〕をもちかけられると、無言でうなずいてしまう。 だが……。 |
文庫 4 − 「血闘」 |
「ふ、ふふ……裸に剥いて見たら、なんと、おもいのほかに水気があったのう」 中年男らしい野ぶとい声にこたえて、別の一人が、 「あの女も、竜野さんにいたぶられたのじゃあ、たまりませんや。もう、後がつづきませぬぜ」 「ひ、ひひ」 「今度は、どなたで?」 「三井伝七郎が、抱きたいというとる」 「六人目ですね」 「お前はどうじゃ?」 「とんでもねえ。けれど旦那。もう、女はまいっていますぜ」 |
編笠をぬぎ、障子へ近寄り、平蔵は小ゆびをぬらして、障子へ穴をあけ、中をのぞきこんだ。 (まさに……) おまさがいた。 真裸にされ、両手と胴のあたりを折りたたんだふとんにくくりつけられているおまさは、ぐっ たりと、仰向けに天井を向いているので、顔の表情はよくわからぬ。 平蔵は、顔をしかめた。 この小部屋へ、盗賊どもが入れかわり立ちかわりやって来て、おもうさま、おまさの肉体を凌 辱しつくしたにちがいない。 見張りが、仁三郎のほかにもう一人いた。 若い、浪人者である。角張った残忍そうな顔貌をしているこやつは、手をのばして、おまさの 裸身をいじりまわしている。 |
文庫 4 − 「あばたの新助」 |
「でも……」 とお才は、新助の小肥りの背へ、おもい、たっぷりとした量感のある乳房を押しつけるようにし、 「明後日、来て下さいましな。きっとでございますよ。だんな。あたし、お才といいます」 ためいきのように、ささやいてきた。 その夜。 佐々木新助は、なかなかに寝つけなかったようだ。 島田まげにゆい、黒えりのついた黄八丈の衣裳からはじけて出そうに見えた、お才の肉体の感 触が、まだ生ま生ましく背中に残っていた。 |
われにもなく、はじらいの色を見せ、ぎごちなくふるまう二十九歳の新助を、お才は存分にあ やなした。 「こんなことをしたからといって、叱らないで下さいまし。でも……ああ、けれど、だんなには、 どうしても、こうしたくなってしまう……」 火のように熱したお才のくちびると舌の愛撫を、わが躰のおどろくべき箇所へ受け、そのあま りにも強烈な刺激に新助は動顛した。 お才は、飽くことを知らなかった。 (女……女とは、こうした生きものだったのか……) なのである。 |
「いらっしゃいな、山本さん」 お才は、すぐに帯をときはじめた。 ちなみにいうと、新助はお才へ「山本三五郎」の偽名を名のっている。 新助は、息をのんだ。 お才の躰についているものは、湯文字一枚きりで、当時の女の仕わざとしては大胆きわまる。 お才が鼻声を鳴らし、近寄って来て、新助の着物をぬがせにかかった。 豊満なお才の乳房が夕あかりをうけ、ことさらにふかい陰影をつくって、むっちりともりあが り、腕や肩のあたりの産毛が光って見えるような気さえする。 裸になった佐々木新助へ、お才が、濃い腋毛を見せつけるようにし、諸腕をさしのべてきた。 そのまま二人が、狂乱のごとき愛撫に没入していったのは、いうまでもない。 |
文庫 4 − 「おみね徳次郎」 |
おみねは、ぐっすりと、ねむりこんでしまったようである。 蚊帳の外の、おおいをかけた行灯の、にぶい灯影に、はだけきったおみねのえりもとから、ま っ白な乳房のふくらみがのぞいて見えた。 受け唇が、わずかにひらいてい、おはぐろにそまった歯がぞっとするほどに、またも徳次郎の 欲情をそそる。 ねむったふりをしながら、うす眼をあけ、徳次郎はおみねを凝と見つめた。 徳次郎は、場所まわりの髪ゆいを渡世にしている。 (惜しいなあ……) つくづくと、そうおもう。 つい先刻まで、おみねは、ほとんど狂乱の態であった。(中略) だが、おみねの着やせをする肉体は、裸になって見ると、胸と腰まわりの肉置きが、むしろた くましいほどで、女ざかりの凝脂がみなぎりわたっている。 数えきれぬほどの女の躰を知りつくしてきた徳次郎なのだが、足かけ二年にわたるおみねとの 暮しに、 (ちっとも飽きがこねえ。いや、飽きてえのだが飽きられねえ) なのである。 徳次郎の愛撫にこたえ、あらぬことを口走りつつ、こっちのくびへ巻きつけてくるおみねの細 腕のちからというものは、すさまじいばかりのものなのだ。(中略) (もったいねえが、畜生……) 徳次郎がそろりと半身を起した。 おみねのくびすじから胸もとにかけて、ねっとりとあぶらが浮いている。こっちの皮膚が吸い こまれて、はぎとられてしまうようにおもえるほどに、おみねの肌はすばらしい。 |
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