親爺の鬼平 - 艶物話

-- お盗め --

事 始 め
言わずと知れた
お 盗 め
嘗  帳
市中探索
文庫1
文庫2
文庫3
文庫 1 − 「唖の十蔵」
 ついに、小野十蔵は身重のおふじと情をかわし合ってしまった。(中略)
 二人が抱き合い、たしかめ合ったのは、ごく自然のなりゆきであったといえよう。  
 (ああ・・・・・・もう、おれは・・・・・・ど、どうしたらいいのか・・・・・・)
  である。(中略)
 (女だ・・・・・・おふじという女に迷ったおれの、何も彼もがくるってしまったのだ・・・・・・) 
文庫 1 − 「本所・桜屋敷」
 「あの、おふさ・・・・・・と、お前がか・・・・・・」
 「左様で・・・・・・もう、そろそろ四十の坂へかかろうというのに、あの御新造ときたら、見かけによ
 らず、まだ汁気も残っておりましてね」
文庫 1 − 「老盗の夢」
  それのみではない。
  反胸の堂々たる体格のお千代の、あくまでも豊満な乳房や腰の肉おきが、喜之助には惜しくて
 惜しくて手ばなせなくなってしまったのだ。
  いつものように、おとよの愛嬌たっぷりな接待をうけ、魚をむしって口へ入れてもらったり、
 一つ盃で酒をくみかわしたりするうち、
 (あ・・・・・・?)
  われながら意外・・・・・・勃然として萌しはじめたのを知ったのである。
  眼前に、おとよのもりあがった乳房が、この世のものではないほどの巨大さで衣服からはじき
 こぼれんばかりであった。
 「おい・・・・・・」
  女の、その体躯にくらべては嘘のようにちんまりとした手をつかむと、
 「あい・・・・・・?」
  はずかしげに、つつましげに、それでいてふれなば落ちようという風情。ぷっくりとしたおと
 よの若い唇がわずかにひらき、白い歯の間からちらちらと紅色の舌が見える。
 「お、おい・・・・・・」
 「あい・・・・・・」(中略)
 「5年ぶりだよ
  おとよにささやくと、女は得もいわれぬ嬌声をもって、
 「あ・・・・・・こないなこと、わたし、はじめて・・・・・・一度にやせてしもうた・・・・・・」
  京都郊外・山端の茶屋〔杉野や〕の奥座敷では、茶汲女のおとよが、京の三条柳馬場に店舗を
 かまえる松屋伊左衛門という中年男に巨大な乳房をもてあそばれながら、
 「あ・・・・・・こないなこと、わたし、はじめてどす・・・・・・一度にやせてしもうた」
  甘い声で、ささやいている。
文庫 1 − 「座頭と猿」
  行灯のあかりの下で、女のあえぎがたかまってきはじめた。
  座頭の彦の市は、茄子の実のような鼻とうすい唇を女のやわらかい下腹へ押しつけ、細いが堅
 く筋肉のひきしまった両腕で、女の腰を巻きしめている。
  このごろ、めっきりと量感にみちてきた女のからだを、五十男とは思えぬ執拗さでまさぐりつ
 つ、
 (こいつめ・・・・・・)
  彦の市は胸の底で舌うちを鳴らした。
 (こいつ、ほかに男をこしらえやがったな・・・・・・)
 「ああ・・・・・・もう、旦那・・・・・・」
  おそのが、無我夢中の狂態をしめしはじめた。
  あさぐろいが、二十の女の凝脂に照りかえった乳房から腋のあたりへかけ、紫色の斑点がいく
 つも浮き出して見える。
  これは、まさに彦の市以外の男の唇が、彼女の肌を吸った痕なのである。
 (畜生め、ほかに男を・・・・・・)
  按摩という表向きの稼業柄、数えきれぬ女体に接してきているし、女好きでは人後に落ちぬ彦
 の市であったが、三ヶ月ほど前から我が物とし、同棲しているおそのを、
 (卯年の九月生まれの女のからだはこたえられねえというが、まさにその通りだ。こ、こんな女
 を生涯のうちに一人でも抱けたらと、おれは夢に見ていたものだが・・・・・・そいつが本当になった)
  ひまさえあれば、日中でも、おそのへいどみかかる始末なのである。
 「おそのさん。もっと私をいじめておくれ。ねえ、もっといじめておくれよ」
  などと、東向庵の二階の小座敷で、女の愛撫に甘えながら、
 (この女とも、もうじきに別れなくちゃならねえ)
  と、考えていた。(中略)
 「ねえ・・・・・・ねえ、徳さんたら、何をぼんやりしているのよ」
  あわただしい愛撫が終って、おそのは、ぐっとひろげた胸もとの、もりあがった肌が汗にぬれ
 ているのもかまわず、(後略)
 「酒井。あの女は、もう座頭のことも死んだ小間物屋のことも忘れているらしいな。あの色っぽ
 いからだへ、男のにおいがしみつくごとに、あの女は得体の知れぬ生きものとなってゆくのさ。
 いや、どんな女にも、そうしたものが隠されているらしいが・・・・・・」
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