親爺の鬼平 - 艶物話

-- お盗め --

事 始 め
言わずと知れた
お 盗 め
嘗  帳
市中探索
文庫1
文庫2
文庫3
文庫 2 − 「蛇の眼」
 「こんなひろい屋敷でも、中には鼠一匹いやしねえ。安心して休んでゆきねえ。さ、こっちへ、
 こっちへ・・・・・・」
  あっという間もなくおもとの唇を吸い、たったそれだけのことで、もう目がくらみ、がくがく
 とふるえはじめた小むすめのえりもとを押しひろげ、
 「おうおう・・・・・・おもとちゃんのおっぱいの白いこと。おうおう、この乳首のちぢれ工合の可愛い
 こと」
  つまらぬことを口走りつつ福太郎め、さっさとするだけのことをしてしまい、(後略)  
  まるまるとした肩から胸、腰のあたりにかけて汗びっしょりとなり、陸へ上った鮪のようにの
 びきってしまっているお妙へ、
 「おい、起きなよ」
  白い眼を向けつつ、蛇の平十郎は煙管をくわえた。
 「ああ、旦那。もう・・・・・・あたし・・・・・・」
 「へっ。だらしのない」
  平十郎が煙管をはなした唇を寄せ、がぶりと女の乳房へ噛みついた。
 「痛た・・・・・・」
 「ふ、ふふふ・・・・・・」
 「ひどい・・・・・・ひどいわ、旦那」
 「お前が浮気をせぬように、今度来るまでは・・・・・・」
文庫 2 − 「谷中・いろは茶屋」
 「もう、これ以上、とてもつづくものではないよ。ああもう、どうしたらいいかなあ……」
  若いさむらいは、ぼってりとした色白のやわらかい裸体の汗をぬれ手ぬぐいでふきながら、
 「ああもう、……こ、こうなるとまったく、押しこみ強盗でもやって見たくなる」
  物騒なことを泣くような甘え声でいい、手ぬぐいを投げすてるや、
 「これが最後だとおもうと、もう何度でも、何度でも、何度でも……」
  床の上へ横たわり、こちらを見上げている妓の細い躰へおおいかぶさっていった。
  ふくよかな若者とは対照的に、妓のあさぐろい肉体はあくまでも細っそりと引きしまってい、
 わずかなふくらみを見せている乳房のあたりへ女ざかりの凝脂の照りが、ねっとりと浮いている。
 「ああもう、これぎりだ、ああもう、つづくものではない・・・・・・」
  などとロ走りつつ、若者らしい率直な愛撫をまたも飽くことなく始めようとするのへ、
 「けれど忠さん。もし、つづいたらどうするえ?」
  妓……お松が笑いをふくんだ声でいう。
文庫 2 − 「妖盗葵小僧」
 「これ、女房どの」
  やさしくいい、首領めが女房のお千代の肩へ手をかけるのを、善太郎は猿ぐつわの中で歯がみ
 をしながら見ていなければならない。
  お千代は、二十一歳の豊満に熟れた肉体を寝床の上へ横たえている。手くびも足くびもしばら
 れ、はだけたえりもとから、みなぎるような若さをたたえた乳房の上部が烈しい息づかいを見せ
 ているのであった。
  お千代は必死でもがいている。眉をしかめ、白い眼で首領をにらみ、かと思うと哀しげな眼の
 色に変り、良人へうったえつづけている。
 「おお・・・・・・きれいな肌、羽二重餅のような肌……」
  歯の浮くようなことを平気でいいながら、この盗賊の首領は、なんといきなり、お千代の裾を
 まくりあげ、女の秘所へ頭巾の顔を埋めていったものである。
  お千代はもがいた。もがきぬいたのだけれども、男の両腕に腰を抱きしめられ、両ひざを曲げ
 させられると、どこをどうされたのだかぐんにゃりと抵抗をやめてしまったではないか……。
  こちらへ背を向けているので頭巾を外した首領の顔は見えぬが、そのかわり、善太郎の眼には
 女房お千代の顔が怪盗の肩ごしに見える。
  お千代のしかめた眉がひくひくとうこいた。
  両手をしばられている苦しい姿勢でいながら、次第に、お千代の眉と眼が、善太郎の愛撫にこ
 たえているときの表情にうつり変ってゆくのを、
 (畜生、畜生……)
  善太郎は見ては顔をそむけ、そむけても居たたまれず、また見た。
  怪盗の右手が、ゆっくりとお千代の乳房へ伸び、しかもまだ彼は女の秘所から顔を上げない。
 お千代の面にも、はだけた胸や両股や脚にも血の色がのぼり、無我夢中の歓喜へ没入しはじめた。
 (畜生、畜生……)
  怪盗め、顔をあげるや頭巾をかぶり直し、いよいよ本格的に犯しはじめる。
  お千代は夢の中にいるらしい。まったく抵抗をやめたかわりに、怪盗の躰のうごきに合せ、狂
 おしげに腰をゆりうこかしはじめたのである。
  どれほどの時がながれたろう。
 「よい味わいであった。ゆるせよ」
  と怪盗め、まるで殿さま気取りの台詞を残し、けむりのように寝間から消え去ったのを、善太
 郎は悩乱の中でうっすらとおぼえている。
  これが、あくまで曲者の陵辱をこばみ、こばみつつ犯されたというのなら、また状態もちが
 ってきたろうが……あのとき、曲者の執拗巧緻をきわめた愛撫に、お千代は、われ知らず歓喜の
 さまを露呈してしまった。どうにもこうにも、
 (そ、それが憎い、くやしい……)
  のである。
  善太郎のみか、いまではお千代も、
 (ああなってしまった私が憎い、くやしい……)
  のであった。
  おのが秘所をさぐり、なぶる、曲者の舌の感触を知ったとき、はじめて、このような体験をし
 ただけに、彼女は動顛した。その非常なおどろきが一瞬にしてお干代の理性をうばいとり、あと
 はもう、変幻自在の男の舌と指のうごきに、思うままあやつられてしまったのである。
  たがいに、すべてを忘れきろうとして、善太郎が狂人のようにいどみかかったこともあるし、
 お千代も懸命にこたえようとするのだが、そのたびに、
 「あ……だめだ。もう、私たちは、だめなんだ……」
  善太郎は、おそろしいうめき声を発し、お千代の躰からはなれてしまう。
  あの夜の、曲者と共に躰をゆりうこかしていた女房の肢体、表情が眼に浮かんできて、善太郎
 は男のちからをどうしてもふるい起すことができない。
  きゃつめ、今度は頭巾も外さずに、すばやく、この少女を犯した。
  しかし、男を知らぬ青い木の実のような少女だけに、情景は無惨をきわめた。(中略)
  首領は、芝居気たっぷりにいい、懐紙を出して刀をぬぐい、あざやかな手さばきで鞘へおさめ、
 おどろきのあまり気を失いかけた内儀のさとへ、
 「ふ、ふふ・・・・・・亭主どの、ちょと遅かったのう。むすめごの、その細やかな白い躰には、わしの
 男のしるしがもうくっきりと押されてしもうた」
  首領の葵小僧は、主の利兵衛の前で女房おきさをもてあそびつつ、
 「おお、この女房どのの味わいのよろしさは、高砂屋の料理にまさる、まさる」
  と、芝居がかりの口調でいい、
 「亭主。われわれは将軍の御落胤、葵丸なるぞ。頭が高い、頭が高い」
  よばわりながら、おきさを犯した。
  夫婦になってからまる二年を経た日野屋夫婦は、去年めでたく男子をもうけたし、恋女房だけ
 に、文吉がおきぬを大切にすることはいうまでもなく、
 「子を生んでから、お前の躰が、めっきりときれいになったねえ。ああもう、こんなにきれいな
 女房をもって、私は、なんというしあわせな男だろう」
  日野屋文吉は、ようやく女の凝脂をたたえて肉置きが充実してきたおきぬの肌身を抱きしめ、
 二十の男のような甘え声を出して愛撫をする。
  こういう女房のいる日野屋へ潜入した葵小僧の意図は、いうまでもないことであった。
  日野屋文吉は身うごきもならぬまでに五体を縛りつけられ、わが眼前で恋女房が妖盗に犯され
 るのを、ほとんど失神せんばかりの惑乱にさいなまれつつ、おとなしく見ていなければならなか
 ったのである。
  葵小僧は例のごとき風采で、
 「亭主よ、亭主」
  と、澄みきったひびきのよい声を文吉へ投げかけ、
 「さすが評判の日野屋女房。おお・・・・・・おお、この餅肌のなめらかさ、美しさ。ふ、ふふ・・・・・・この
 ような逸物を一人じめにするとは、これ日野屋。そちはにくい男よ、いやさ、しあわせな男よ。
 そのしあわせを身どもにもわけて候え」
  歯の浮くような台詞をぬけぬけといってのけ、おもうさま、おきぬをなぶりつくした。
  たちまちに、文吉は縛りつけられ、妖盗は、猿ぐつわをさせたおきぬを犯しはじめる。
 「おお、これはたまらぬ。この肌ざわりのこころよさ……」
  などと、勝手な声をあげながら、妖盗めは頭巾からのぞいて見える顔の一部がびっしょりと汗
 にぬれるまで熱中した。これを見ている日野屋文吉は、たまったものではなかったろう。
  すべてが終ると、葵小僧は、
 「満足、満足」
  と、何度もうなずいたが、
 「さて、日野屋。もはやわれ、女房どのの肌の香を忘るることができぬそよ。そのうちに、また
 参上。待ちやれ、きぬどの」
  女のようなやさしい声音でいい捨て、風のごとく去った。
 (だが、その前に……)
  辻駕籠の中で、芳之助はにんまりとした。
  日野屋女房おきぬの、ふっくりと白い肢体が脳裡にうかぶ。
 (これまでに二度、おれもずいぶんと手をつくしたものだが……)
  おきぬは、他の女のように我を忘れて燃えあがらなかった。
  葵小僧のゆびや舌の攻撃をじっと耐え、棒のように横たわっているのみであった。
 (見ていろ、今度こそは……)
文庫 2 − 「お雪の乳房」
  当時の〔しる粉屋〕というやつ、現代の〔同伴喫茶〕のようなもので、甘味一点張りと思いの
 ほか、ところによっては男客のために酒もつけようという……松月庵の奥庭に面した小座敷で、
 早くも木村忠吾、桃の花片のようなお雪のくちびるを丹念に吸いながら、八つロから手をさし入
 れ、固く脹ったむすめの乳房をまさぐっている。(中略)
 「ああ、もう……お雪とこうしていると、おれはもう、お役目なぞどうでもよくなってしまう。
 ああもう、たまらない。お前と片時もはなれてはいられないのだよ」
  などと他愛のないことを口走りつつ、忠吾はお雪のえりもとを押しひらき、南天の実のような、
 紅くいじらしい乳首を吸いはじめる。お雪はもう、全身のちからをうしない、ぐんにゃりと忠吾
 の腕にもたれ、両眼を悦惚と閉じ、あえぎにあえぐばかりであった。
文庫 2 − 「埋蔵金千両」
  三十も年上の万右衛門であったけれど、温厚な人柄だし、しかも壮者におとらぬ愛撫のたくま
 しさで自分を陶酔させてくれたし、この一年半の二人きりの生活は、おけいにとって幸福そのも
 のであったといってよい。

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