親爺の鬼平 - 艶物話

-- 嘗 帳 --

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嘗  帳
市中探索

鬼平犯科帳には、様々な小道具がうまく使われてますが、なかでも度々出てくる物の一つに「煙管」があります。
特に、平蔵の愛用する銀煙管などは「大川の隠居」に代表される重要アイテムですが
・・・・・・あなた、キセルって、実物触ったことありますか?
当節、私の世代はもとより、大夫上の世代の方でも煙管を御使用になられる方は極めて少ないのではないでしょうか。
ちなみに私は、ほんのガキの頃、祖父が使ってるのを触った記憶がありますが、「煙管で一服」は最近まで未体験でした。

1. 煙管の形態
「キセル」というと、だいたい皆さん、その形は思い浮かびますよね。
そう、@先端に鈎状に曲がった煙草を詰める金属の筒があって、A尻にやはり金属の吸い口があって、Bその間を竹か何かの管が繋いでる、あの形。
その構成部分それぞれに名前がある訳ですが、@を「雁首(煙草を詰める所は火皿)」、Aはまんま「吸い口」と、ここまでは知ってる人も多いでしょうが、Bを「羅宇(らお又はらう)」というそうで、私初めて知りました。
何でもカンボジアの近く羅宇国(今のラオス?)に産する竹(黒班竹)を使用していたことによるそうで、キセルの語源も、カンボジア語で管を意味する「クセル」が訛ったって説があるらしい。
2. 煙管の携帯(韻を踏んでみました^^;)
煙管は携帯喫煙具ですから、当然みんな外出の際も持ち歩くわけですが、なるべく粋に且つ機能的に行きたいわけでしょ。で、そのためのグッズ「煙管入れ」があるんですが、煙管だけあっても用をなさない(ま、今ももらい煙草ばっかりのけしからん奴もいますが)ので、葉っぱも持たなければならない。
そこで煙草吸い必携の品「莨(たばこ)入れ」があるわけです。
通常、刻み煙草を入れる「莨入れ」と煙管を入れる「煙管入れ」とをセットで「莨入れ」と呼ぶそうですが、材質は革製が多いようです。
まあ、煙管入れと莨入れは紐なんかで結ばれてて、煙管入れを帯に差したりしたんですが、色々スタイルがあったらしく、根付けで二つとも提げてみたり、煙管は剥き出しで帯に差したり、袂に入れたり、今と同じに一種のファッションだったんでしょうか(いるでしょ、キーホルダーにじゃらじゃら鍵付けてベルトに提げたりしてる人)。
3. 吸い方
煙管で喫煙行為を行うためには、他に最低でも二つのものが必要です。
すなわち、「刻み煙草」と「火種」です。
葉っぱは携帯してるのでOKとして、火種はマッチもライターもない時代どうするか・・・ここでもグッズが登場します。
「火入れ」「灰吹き」の二点をきっちり納めた「煙草盆」というもので、民家、商店、茶店などに必ずと言っていいほど用意されていたようです(今でも灰皿置いてるでしょ。え、最近は無い?そうなんだよねぇorz)。
「火入れ」とは、陶器や鉄器の炭火熾を入れた火種用(えー、不謹慎かも知れませんが、具体的にはお葬式なんかで仏式の場合、焼香を行う香炉っていうのかなぁ、あの、坊さんが経をあげてるとこでみんなして順番に粒状の香をぱらぱらして拝むアレと基本は一緒です)。
「灰吹き」は竹なんかでできた「吸い殻入れ(ほとんど灰だけですが)」で、蓋なんか付いたりしてます。
で、これらを入れたのが「煙草盆」ですが、こしらえはピンキリで、単に木箱といったものから、彫刻を施したり、煙管や刻み煙草を収納する場所や小引出の付いた物など色々でした。
刻み煙草を適量火皿に軽く詰めて、火入れにかざして火を付け、数度ふかすように味わう、で灰吹きの縁で「ココーン」と灰を落とし込む、これで一服(そういえば江戸噺でも短気な奴がのんびりした奴の煙草の吸い方にイライラするのあったなぁ)。
4. 刻み煙草
今と違い、江戸時代の煙草は許認可事業ではありませんで、煙草屋をやりたい人は誰でもできたらしく、町場の煙草屋が葉っぱを仕入れて自前で細く細く刻んで売っていたようです。
煙草屋も無論大小あったでしょうから、手広く各地の銘柄の葉っぱを仕入れて、職人を雇って商うところもあれば、個人でひとつふたつの葉っぱを扱う店もありました。
ここまでは判らなかったんですが、ひょっとして、乾燥具合の秘伝とか、何か振りかけるとか、ブレンドするとか、色々バリエーションがあったかも知れませんねぇ。
5. 喫煙を取り巻く事情
日本に「煙草」なるものが入ってきたのは、慶長年間(1600年頃)だそうで、そうなると「武蔵坊弁慶が大煙管を燻らせながら立ちはだかった」なんてことはあり得ないんですねぇ。
さて、鬼平が火付盗賊改メとして活躍した天明から寛政の頃(1780〜90年代)の江戸はといいますと、愛煙家は随分といたようで、鬼平にも良く煙草問屋・煙草屋が出てくるが、実際にも当時の「宣伝雑誌のようなもの」だとおもうが「江戸買物獨案内」にも掲載がみられる。
たばこ税等も無かったようだし、年齢制限も無かったらしく、子供でも吸っていたらしい。
但し、ちゃんとした商家や武家の女が喫煙するのは、やっぱりはしたない事だったみたいですね。
そうそう、歩行禁煙です(^ ^)
江戸の町では火種には厳しく、火事と喧嘩は江戸の華と言うけれど、数回の大火により大被害を被ってもおり、それこそ「火付」と「盗賊」が同様の取締り対象になるほどですから、町場での喫煙は必ず煙草盆のあるところだったようです。スモーキンクリーン。

最近、煙管初体験してみて思いますが、なかなかいいもんです。
紙巻きや葉巻のように長い時間吸うもんでは無いんですが、葉っぱの香りというか野趣というか何ともゆったりします。
直に葉っぱの持つ味わいが感じられるんですね。
といっても、思いの外マイルドで、フィルター無しでも刺すような刺激は無いんですよ。
聞くところによると、羅宇がフィルターの役目をし、長い空間を通ってくる間に煙が冷やされ味を高め、まろやかにするのだそうです。
煙管、煙草盆、刻み煙草といった道具立てを、ちょいと揃えて、ゆったりとした時を過ごすのも良いのでは・・・。

煙管・煙草盆 ここでも手に入ります。

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